q-BOOK

内容は、ないよう。

牙と牙との間には

夜。
ゴン太郎さんが、あぐあぐとごはんを食べていた。
(骨のかたちの専用ドライフード、キャットフードのカリカリみたいなものです)
・・・
カリカリ、と小気味の良い音が部屋に響く。
しばらく、眺める。
カリカリ、ガリガリ、ゴリゴリ・・・・ガリ・・・
・・・
・・・
(シーン・・・)
・・・
・・・
???
あれ、音がしなくなりましたよ?
見ると、口は、(あぐあぐ)、と、無音のまま動いている。
猫が飲み込みにくいエサを食べるときのように、
首を右に左に傾けて、なんだか形相は必死なようにも見える。
何が起こっているのか分からず、しばらく様子を見ていると、
ととと、とケージの階下に降りてきて、顔を洗うときのようなしぐさをする。
・・・
????
・・・
口元を、よーく、見てみる。
と・・・
あれ?
もしかして??
目をこらして良く見ると、上の2本の歯(ちっちゃい牙です)の間に、
カリカリがうまーく、挟まっている。
どうやらそれを、どうにかこうにか、取ろうと必死でもがいているようなのだ。
ぷ、ぷぷぷ。
いや、本人は至って真面目なので、笑っちゃいけないけど、これはおかしい。
おかしいし、可愛いし、そして愛おしい。(なんで?)
・・・
ちょっと、おいで。
ケージの戸を開けて出そうとするけど、
なんせ当の本人は必死なので、それどころではなく。
前脚を掴んで抱き寄せようとするけど、両足を踏ん張ってまで拒否され。
口もとに指を持っていってみるも、嫌、とそっぽを向かれる。
若い女の子に拒まれるおじさんというのは、こういう気分なんだろうな、
と、ちょっと悲しく思いつつも、しかたがないのでまたもそのまま見守る。
あぐあぐし出してから、2分くらい経っただろうか。
しゃり、とゴン太郎の口元からちいさな音が。
・・・さり、かり、かりかり、あぐあぐ。
あ!
取れたよ!
かあさん、カリカリ取れた!
・・・
ちゃくちゃくちゃく、と私を見上げながら、
前歯(牙なんですけどね)に挟まっていたエサを噛みしめるゴン太。
よかったねえ、と頭をなでてやる。
映画館でぽりぽりポップコーン食べてる時とかに、
歯の裏側にキレイにとうもろこしの皮が張り付くことがあって、
すごく気持ち悪くて、しかもなかなか取れなくて、っていうことありますよね。
ちょうどああいう感じで気持ち悪かったんじゃないかと。こう思うわけです。
・・・
ひさしぶりにハラハラしたけど、でもちょっと笑った。(ごめんよ、ゴンちゃん)
いやでもほんと、良かったよねえ。