q-BOOK

内容は、ないよう。

夏、夜、野球。

ナイター中継は割と好きだ。
実家の夏を思い出すからだ。


お風呂から上がったお父さんが、
それまで開け放っていた窓を閉めエアコンをつける。
19時、中継が始まり、私たちは夕飯を食べ始める。
子供だし、女の子だし、そんなに野球には詳しくないので、
画面は眺めているだけだ。
肉や野菜や米を食べながら(付き合い程度に)、
『二死満塁ってなに?』とか『今どうなってるの?』とかとかを、
お父さん(巨人ファン)に聞く。
どんなに基本的な質問にも、お父さんはひとつひとつ答えてくれた。


もともと厳しい人だったが、うちでのお父さんのチャンネル権限は特に強く、
裏で歌番組があり、好きな歌手が出ているときなどは、
CMの間だけ見せてもらえた。
後片付けをし、お風呂に入り、乾ききっていない髪のまま居間に涼みに行くと、
お母さんは冷たいくだものや飲み物を出してくれた。
お父さんは真剣な顔で(時には眉間に皺を寄せて)テレビに見入っていて、
たまに『よっしゃ』とか『そこじゃホラ』とか声を出したりしていた。


今はもう実家を出て、たまに帰省するときもとても慌しいし、
きはらんは野球好きな人ではないので(でもアンチ巨人らしい)、
なかなかそういうのんびりした夏の夜を過ごすことはなくなってしまったが、
ふとテレビで、応援団のトランペット(ラッパというべきか)を聞いてしまうと、
無条件に心は、実家の夏の夜に帰っていく。
わたし、疲れているんだろうか。