q-BOOK

内容は、ないよう。

空っぽ

寝起きの一瞬、きはらんのことを忘れる。


私はベッドの上ひとり目覚め、きはらんを探した。
(きはらんはトイレでマンガを読んでいた)
でも『あれ、この人はなんで私と暮らしているんだろう』という疑問がわき、
この人と対になっているはずの女の人はどこだろう、と思った。
どうやらきはらんのことをおじいちゃんか誰かと思ったらしいのだ。
離婚したんだっけ、とか、どこか別のとこ居るんだっけ、とか、
考えていた。


あっ。


この人と対になる女の人って、私だ。


そう気づいたのは3分後。


私は、日々こういうことが多く、我ながら心配になる。
与えられた仕事を忘れて怒られることは日常茶飯事で、
(メモは取っているが、メモを取ったことすら忘れる)
それは別に私にとってそんなに問題はないのだが(ないの?)、
さっき考えていたことは何か、昨日行ったところはどこか、
私の中でいちばん大事であるはずのきはらんが関係することも、
簡単に忘れてしまう。
人間は忘れていく生きものだとか、『忘れんぼう』だというだけでは済まされない。
むかしはこうでなかったはずなのに。
もの忘れをする病気の名前とかが、ぐるぐるあたまを回る。
大好きなきはらんのこともいつか忘れるのだろうか。
私にしてくれたいろんなことや、掛けてくれた言葉。
自分でも困っている、と言うと友人たちはあきれて笑うけど、
(きはらんは私のことを笑わない、いつも『心配ないよ』と言ってくれる)
私は本当に悩んでいるのだ。
そのくせ、忘れてしまいたいことはいつまでも覚えていたりするのだから、
どうしようもない。自分のものだけど、よくないあたまだ。